CosmosLabタイトル


文/佐藤朋子
旅は道連れ・第一話
 一人旅は時に寂しいけれど、じつは出会いの宝庫でもある。グループや二人旅の場合ももちろん出会いはあるけれど、一人旅のそれとは比べものにならないほど機会は少なくなる、と私は思っているのだ。
 ホテルで、レストランで、街中で、そして移動中の電車や飛行機の中で。仲間同士で盛り上がる旅行者達は大抵、他の旅人には無関心だ。たとえば私が一人きりで駅に佇んでいても、きっと、プラットホームの風景に溶けて見えるだろう。また、彼らに話し掛ける人も、何か目的がある以外はほとんどないだろう。反対に一人旅をしていると、彼らの賑やかなおしゃべりはBGMになり、自分と同じようにぽつんといる人が風景から浮かび上がってくるのだ。
 なんとなく人恋しくなっているせいか、ささやかなコミュニケーションを求めて、どちらからともなく話し掛けたりする。そして、予定が合えば、その日一日の行動を共にしたりするのである。
 そんなふうにして出会った、忘れられない人達が私にもいる。旅の途中で偶然会い、住所を交換し、帰国してから再会した人もいた。
 中でも、とても印象的だった幾つかの出会いを紹介しようと思う。
 まずは飛行機の中でのとてもおしゃべりなマダムとの出会いだ。例によって私のドジのおかげでお世話をかけてしまった。
 6年前、フランスに1ヶ月ほど滞在したことがある。1ヶ月のうちはじめの2週間はホームステイ、あとの2週間は現地で決める、という曖昧なスケジュールであった。でもとりあえずの行き先は決まっていたから、私は機内でも安心していたのである。季節はずれだったせいか、大韓航空機の私のシートの隣りは空席だった。すると、いつしかフランス人のマダムが、煙草を吸ってもいいかしらと言いながら(彼女は禁煙席だったらしい)、そこに座ったのだ。彼女はずいぶんおしゃべりな人で、私を話し相手に決めると、聞き難い英語で、フランスの政治事情や、失業率が高くなって困るとかぺらぺらとしゃべりだした。やがて、彼女が画家であり、韓国で個展を開いた、その帰りなのだということが分かった。そして、私が日本では出版社に勤め、編集をしているということが分かると、俄然張り切りだして日本でもぜひ個展がしたいのだと熱く語ったのだった。自分の作品を送るからと、日本での住所も聞かれ、これは帰国後、本当に届いた。
 しかしそのときはまだ、長いフライトのいい退屈しのぎになった、くらいにしか私は考えていなかった。
 さて、本当に恥ずかしい話だが、到着間近になって、なんとなくエアチケットを眺めていた私は、ふとあることに気付いた。
 え、これって今日の夜、着いちゃうじゃん!
 こ、こんなはずじゃぁ・・・。
 ホームステイをはじめる当日の昼間に到着する便を予約したはず。空港からそのままステイ先に行けばいいと思っていたからだ。
 それが、どうやらこの飛行機は前日の夜に空港に着いてしまうようなのだ。
 間違った飛行機に乗ったというわけではないので、予約したときから間違えていたのだろう。そのことを今の今まで全く気が付きもしなかった自分自身が、本当に信じられなかった。少なくとも出発日の2週間前にはチケットをとっていたはずだ。
 事態をようやく飲み込んだ私は、とにかく今日の夜、泊まる所を確保しなければならないという必要に迫られていた。
 夜中にステイ先を訪ねるわけにはいかない。とはいえ、夜、パリから遠いシャルル・ド・ゴール空港から一体どうすればいいんだろう。インフォメーションは閉まっている。
 初めて訪れた場所で、私は呆然としていた。
 到着ロビーからはどんどん人がいなくなった。もう一人、機中で知り合った日本人のダンサーの女性も、迎えに来ていた友人と共にいなくなってしまった。同情はしてくれたんだけれど。
 途方にくれた私がロビーでうろうろしていると、さきほどの画家のマダムが声を掛けてくれた。迎えに来た夫らしい男性と一緒だった。私は泣きそうになりながら、ふたりに事情を説明した。とにかくそこには知り合いは彼らしか居ないのだ。
 彼らにどこか泊まりたいホテルがあるかと聞かれ、そのときたまたま持っていた女性誌に「パリのお洒落なプチホテル特集」があり、そこに紹介されていたホテルを指差した。エトワール広場の近くにある、シックなホテルだ。
 でも予約してないから・・・、と私。
 パリまで遠いし。夜中の移動はコワイ。
 するとムッシュがその記事を手に、ホテルに予約の電話をいれ、部屋を確保してくれたのだ。しかも、パリ近郊に住む彼らは、わざわざ私をクルマでホテルまで送ってくれたのだった。
 本当に嬉しかった。
 心から感謝した。
 同時に、自分のマヌケさを呪ったけれど。
 彼らには、パリ滞在中にも自宅に招待されディナーをご馳走になったりして、お世話になったのだった。
 期せずして泊まることができたホテルは、ちょっと料金が高かったけれど、可愛くてとても素敵だった。貧乏旅行のなかでは、結局一番いいホテルだった。
 こうして、その旅の初日はずいぶんとスリリングだったけれど、「終わり良ければすべて良し」的にハッピーに終わったのだった。
 彼らの親切は、ずっとずっと忘れないだろう。
HOTEL GALILEO
偶然泊まることになった思い出のホテル。
フロント&ロビー
ひさしの赤。
客室の窓からは赤いゼラニウムが咲きそろう。
ロビーから客室へつながる踊り場もこんなに可愛い。

▼CosmosLab TOP