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文/佐藤朋子
最終回 ホリー・ゴライトリーのように
 高校3年の時、私は大学受験の為の予備校に通っていた。ある日の授業で小論文の課題が出た。テーマは『道』だった。その時、自分がどんなことを書いて提出したのかは全く覚えていないのだが、全ての作品を添削した後の、予備校教師の言葉が今も心に残っている。
 なかなかいい作品が多かった。だが、一つだけ残念なことがある。それは、『道』を『人生』に喩えて書いてきた人がいなかったということだ。
 と、このようなことを教師は言ったのだった。

 迷い道。分かれ道。真っ直ぐに続く道。曲がりくねった道。……。
 確かに、道は人生と似ている。今たとえば同じ課題を与えられたら、迷うことなく人生について語ることが出来るような気がする。しかし、当時は17歳。まだ大きな分岐点さえ経験していない頃だ。その場にいたほとんどの学生達が、それまでの人生をほぼ真っ直ぐに歩んできたに過ぎなかっただろう。そこから人生そのものを想起するのは難しかったのだ。
 どこが分岐点だったのかなんて、振り返ってみて初めて分かることなのだから。
 あの時のあの小さな選択。
 小田和正の『ラブストーリーは突然に』ではないが、毎日がささやかな選択の連続で出来ている。そしてそれが大きな波へと繋がっていく。狭くて険しい道を選んだとしても、その先にはとてつもなく広い世界が待っているのかもしれない。それは辿り着くまで決して分からないことだ。

 そんな風に考えていたら、旅というのもまた人生に似ているのだと思った。
 誰かと共に行く旅。一人旅。あてもなくふらりと出掛ける旅。ツアーパックで行く旅。ハプニングやトラブル。出会いや別れ。……。
 旅は、人生をぎゅっと凝縮したものなのかもしれない。
 人生は一度きりだが、旅なら何度でも経験できる。そこがいい。だから、人は何度でも旅がしたくなるのだろう。旅から戻ると、「ああ、やっぱりうちが一番」なんて言いながらお茶を飲んだりするでしょう。それでもまた人は出掛けていくんである。
 振り出しからもう一度。
 間違っても失敗しても、反省して、学んで、また出発できる。
 私達は旅を重ねることで、人生の勉強をしているのだろうか。

 NASAの科学者の言葉を思い出す。初めて人間が月に降り立ったアポロ11号の話だ。
「アポロ11号は、90%の時間が軌道から外れていたんだよ」
 つまり、アポロが月へ向かう時、もちろん月までの距離方向などプログラミングを完璧に計算した上で発射されたわけだが、実際、月に辿り着くには実に細かな軌道修正が何度も何度も繰り返されたというのだ。ただ最終目標だけを見失わなかった。

 私の知り合いには、落ち込んだ時や何事もうまくいかない時、「旅に出て自分を見つめ直したい」とか「人生をリセットする為に旅にでる」と言ってふらりと居なくなってしまう人がいる。彼がどんな最終目標を持っているのかは知らないが、その夢を紡いで実現していく過程において、旅が軌道修正の役割をしているのだと思う。

 少し前まで「なりたい自分になる!」系の本がよく売れていたけれど、そんな風に自分のビジョンを明確にすることは、だから大切なのだろう。その目標さえ見失わなければ、幾らでも寄り道や回り道をすればいい。そして少しずつ軌道修正しながら、前に向かって歩んでいければいいと思うのだ。

 私自身も、学生時代から目指していた出版関係の仕事をしているものの、まだまだやってみたいこと、なりたい自分がある。日々のスケジュールをこなすのに精一杯だったり、思わぬトラブルに見舞われたり、その対処に手間取ったり、思ったように評価されなかったり、やる気がなくなったりすることも多いけれど(なんだか散々です……(笑))、最終目的地に辿り着くことを信じて、何度でも軌道修正を加えていこう。それが、人生という旅なのかもしれません。
 先は長い。
 映画『ティファニーで朝食を』でオードリー・ヘップバーン演じるホリー・ゴライトリーの名刺の住所は、いつでも<Traveling>(旅行中)と書かれていた。
 そう、私もまだまだ旅の途中なのだ。

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