『ラインを超えて〜』

文章/石野みどり
 だ。
 毎年この季節になると、化粧品を総とっかえしたくなる。肌に塗る下地クリームも、パウダーも、口紅も、アイシャドーも、とにかくあらゆるすべてを新品にしたい。全部に手をつけると相当な額になるので結局はどれかをあきらめて少しずつ変えることになるのだけれど、春という季節はわたしという人間をまっさらにしたくなる衝動を与える。

 それはフリーランスとなって社会の枠組みから外れているわたしでも、ささやかなリフレッシュ気分を味わいたい、ということなんだろうか。証券会社のOLという真っ当な社会生活を送っていたころには、4月になると初々しい新入社員が入ってきて空気が新鮮に感じられたものだ。たどたどしい敬語の使いかたに、自分が新入社員だったころの気分を投影したり、自分はお局(おつぼね)なんかにならないぞ、などと思いを新たにしたものだ。

 あの頃、わたしはいつまでも、みずみずしくありたいと思っていた。

 フリーランスになると、新入社員などという気分とは無縁である。ゴールデンウィークや祝祭日とも無縁になるし、1年中が休日で、1年中が仕事デーだ。
 そんな場所に身を置いているからこそ、なにかのタイミングで自分をリフレッシュしたくなるんだろう。I'M HEREのキャッチコピー〔イニシャライズ・ユア・ヘッド〕とまではいかなくとも、ワンステップ、ひとつのラインを超えてみたくなる。

 (それにしても、いつも思うことだけれども〔イニシャライズ・ユア・ヘッド〕ってなんて過激なコピーなんだろう…。命名したのは『不思議旅行案内』(大和出版)の著者である長吉秀夫さんなのだけど、彼とわたしが一緒にWebMagazineをやってること自体が不思議な気持ちに駆られます……)

 メイクは女性を手軽に変える、いちばん身近な武器だ。
 なりたい自分になる、あるいは見せたい自分になるために、わたしはメイクで自分の顔を創る。堂々と自信をもって自分らしい仕事ができるように。あるいはわたしという人間の内面を伝えるために、メイクが自己表現のアイテムになる。

 わたしにとってすっぴんで仕事場に行くのは、パジャマ姿で会社に行くより恥ずかしい。素顔の自分に自信がないから飾りたてるんじゃない。自分の内面を伝える努力をしないで外にでるのが恥ずかしい…。そんな微妙な価値観を持っている。

 クールなイメージのわたし。シャープなイメージ。甘いイメージ。知性的(に見える)わたし。華やかなイメージ…。メイクを変えるたびにまったく違った気分を味わえるのに、すっぴんで外に出ることは楽しむ努力すら手放しているような気分になるのだ。

 4月から始まったTVドラマで、米倉涼子が主演している『整形美人。』という番組がある。小さい頃から外見も性格もブスだったヒロインが、自分でお金をためて800万円で全身整形し、今まで憧れていた生活を手に入れるべくパワフルに生きる……というのがおおまかなストーリーだ。

 米倉涼子演じる、整形して美人になったという設定のヒロインが言う。
「美人は美人に生まれてくるんじゃないの。周りにきれいだねって言われたいから、彼にかわいいねって少しでも思われたいから…努力して、努力して、美人になるの」

 努力して美人になる−。わたしにとってそれは永遠のテーマであるように感じる。
 努力というと、大変、頑張る、といったイメージもつきまとうけれど、自分という人間とつきあいながらなりたい自分を想像し、自己演出するのは、クリエイティブでとても楽しい行為だ。

 自分が美人かどうか、といった周りの評価はともかく、自分という素材を活かすためのメイクはとても大切なことのように思うのだ。

 こんなことを考えるのも、ここ1ヶ月というものずっととあるホームページのコンサルティングに関わっていて、机の上に山積みにした女性誌とずっとにらめっこしていたからかもしれない。

 女性誌から感じられるのは、手軽に、かんたんに、美しくなりたい願望を表に見せつつ、内面も知的に充実したい、癒しも前に進むためのひとつのアイテムといった位置づけで、とにかく前向きなエネルギーだ。いろんなものに欲ばりで、自分の欲求に素直に行動する、これがいちばんなのだというメッセージを感じる。

 フットワークは軽やかに。ココロの声に素直になる−。
 最近のわたしは真剣にこんな自分を恋い、まっさらにしたいと思っている。
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