『夢見る頃を過ぎても。』

文章/石野みどり
 日はクリスマスだ。
 みなさん素敵なクリスマスの夜をお過ごしですか。

 毎年、クリスマスの時期になると少しだけ浮かれたような気持ちになる。
 東京の街を彩るきらびやかなイルミネーションに目を奪われ、街中にサンタクロースの格好をした人々が歩いているのも、楽しいなと思う自分がいる。

 サンタクロースは実在するのだと本気で信じていた幼い頃、とびきり豪華なクリスマスケーキをサンタクロースにお願いしたことがある。
 今でも覚えているのだが、それは3段のクリスマスケーキで、いちばん下はチョコレート、2層めが生クリーム、いちばん上はアイスクリームでできているのである。
 それを妹にも取られず、「ひとり占めして食べたいです」などと紙に書いて、靴下のなかに入れておいた。
 すると本当にクリスマスの朝には、枕元にケーキがどかんと置かれていたのだ。
 おそらく父親の特製手作りケーキだったんだろう。
 とびきりに嬉しくて、大きなケーキなのにもったいなくて、少しずつ食べた記憶がある。結局はひとりで食べきれなくて、大きくなったらいつかひとりで全部食べよう、などと思ったものだ。
 あの頃と比べたらだいぶ大人になった今では、甘いものが大のニガテになってしまいその夢は果たせそうにない。

 また、ある時のクリスマスでは「すいかをまるごと1個食べてみたいです」。などというお願いごとを書いた記憶がある。真冬の季節なのにわたしの両親は、どこから調達してきたんだろう。クリスマスの朝、枕元にどかんとすいかがまるまる1個置かれていたときは、とても感動した。
 結局はそれもひとりでは食べきれなくて、大きくなったら、いつか必ず……などと思ったのだった。こっちの夢ならいつか果たせるかもしれない。

 いくらサンタクロースといえども、かなえられなかったお願いごとがある。
 あるクリスマスイブの夜に靴下の中にいれた願いごとは、
「夏になったら、学校のプールの水をメロンジュースにしてください」と書いたのだった。泳ぎがニガテでよくプールの水を飲んでしまった小さい頃のわたしは、同じ飲むなら大好きなメロンジュースの中でおぼれたい、と考えたのだ。
 クリスマスの朝に目覚めたわたしの枕元にあったのは、小さなウサギの形をしたサイフだった。
 この願いごとには、さすがに両親も困ったのだろう。
 それにしても、あのサイフの意味はなんだったのか。将来、お金をためて自分でプールにメロンジュースを入れなさい、というメッセージだったのか。
 それでも、わたしは本気でサンタクロースを信じていたので、夏になったらきっとプールがメロンジュースでいっぱいになっているはずだと思っていた。

 いつからか、サンタクロースというものは実在しない。サンタからのプレゼントは両親が枕元に置いてくれていたのだと知るようになる。そして、欲しいものをかなえてくれるサンタクロースの存在は、やがて、両親から大切な恋人へと移っていく。
 そんなふうにして、わたしのクリスマスはいつも特別で、素敵な思い出とともにあるからこそ、毎年、少しだけ浮かれてしまうんだろう。

 昨日のクリスマスイブの夜は、日本武道館でおこなわれたアルフィーのライブで過ごした。エネルギッシュで激しいこの日の演奏は、たっぷり4時間もあってすさまじいものがあった。これが来年、メンバー全員50歳になろうとしている、デビュー30周年を迎えるバンドのライブだとは思えないほどの、熱い夜だった。

 この日は、クリスマスイブということもあるが時代を象徴した『戦争と平和』を祈る曲目が際立っていたように思う。高見沢さんはMCできっぱりと言いきった。
「日本は国際貢献という名のもとに、戦後初めて戦地に自衛隊を派遣する、と言っています。しかし、どう考えてもこれは派遣ではなくて、派兵だろう。誰かにとって都合のいい言葉に惑わされているのではないか。少し考えれば、言葉の意味に気がつくはずです。
 イラクの人が、戦地で闘っているときにアメリカの兵と日本の兵の目的の違いを、同じような迷彩服を着ているのに、わかるわけがない。しかし、そういうことを決めた政府を選んだのも、我々、日本の国民だということもしっかりと見つめていかなければいけないと思っている」−と。

 いつからか、サンタクロースというものは実在しないのだと知ったとき、欲しいもの、願いごとをかなえてくれる存在は、両親に、そして恋人へと変わった。
 自分で自分にご褒美、と言ってサンタクロースの名を借りて、自分でお金を出してちょっと豪華な物を買ったこともある。

 それでも、今のわたしにはまだ満たされない、本当に心から欲しい、と願うものがある。
 そんなときだ。
 大人になった今でも、どこかでサンタクロースの存在を信じたいと願う自分がいる。
 きっとどこかに、希望という名のサンタクロースがいるのではないか。

 靴下のなかに、お願いごとを書いて入れよう。
 戦争のない穏やかな世界になりますように。
 そのために祈ることはできる。小さいけれど、確実にできることを探していこう。
 クリスマス、おめでとう!
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