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文/堀本真理美

【TOM WAITS / I Hope That I Don't Fall in Love with You】
prince (収録アルバム:Closing Time)(c)(c)1973 Elektra Entertainment

 寒い季節がやってきてクリスマスが近づくと、懐かしい感情を呼び起こす音楽が聞 きたくなります。ジャズ・バラードとかピアノの弾き語りとか。
 これはトム・ウエイツのデビュー作に収められた大好きなアコースティックなナン バー。20代前半にして男の哀愁を漂わせていたトム、パッとしない男の歌も多いけど 実はけっこうもモテたんじゃないかな。女性は、というか、私は、強がりを言ったり 弱い部分を見せてくれる人も好きです。
 この曲は、酒場で素敵な女性を見つけた男が「彼女に声を掛けて親しくなりたいけ ど…」と、小さな葛藤を胸に独り押し問答している感じ。こうしたバー・ラウンジか ら恋が始まったりするの、欧米の映画などでよく見るシーンですよね。
 オレンジ色の照明が薄暗い店内を照らし、辺りにはタバコの煙りが立ちこめ、静か に音楽が流れる店内に女が一人で入ってくる、とか。
 カップルで店に入ったけれど、二人は喧嘩をして男が立ち去る。少し離れたところ から様子を見ていた男が後に残された女に声を掛ける、とか。
 そういえば、『プリティ・ウーマン』で美中年(?)俳優としての人気を不動のも のにしたリチャード・ギアの初のメジャー作『ミスター・グッドバーを探して』とい う映画は、バーから始まった出会いがとんでもない結末になるストーリーでした。
 ま、いわゆるナンパなのですが、映画の中ではもっと運命的な出会いに見えるから 不思議。日本ではこういう場面ってあんまり見かけない気がするんですが、実際に恋 は生まれたりしているのかなぁ。
 現実はそううまく行かなくて、声をかけてくるのは「ちょっと勘弁して…」という ような男だったりするのよね(笑)
(以下、歌詞抜粋)

Well I hope that I don't fall in love with you
(君に惚れなきゃいいな、って思ってるんだ)
'Cause falling in love just makes me blue,
(なぜって、恋ってヤツは俺をブルーにするからさ)
Well the music plays and you display your heart for me to see
(音楽が流れ、君は俺に見えるように心を開いてる)
I had a beer and now I hear you calling out for me
(一杯やったら、君が俺を呼んでるように聞こえるんだ)
And I hope that I don't fall in love with you.
(けど、君とは恋に落ちないほうがいい)

Well the room is crowded, people everywhere
(店は混んでて、人でいっぱいだよ)
And I wonder, should I offer you a chair?
(で、思ったのさ、君に席を勧めるべきかなって)
Well if you sit down with this old clown,
(もし君がこのしがないピエロの俺と座ったら)
take that frown and break it,
(そのしかめっ面をくずしてやるよ)
Before the evening's gone away,
(夜が去っちまう前に)
I think that we could make it,
(俺たち上手くいったんじゃないのかな)
And I hope that I don't fall in love with you.
(にしても、君に惚れなきゃいいなって思ってる)

 hope というのは「希望する/願う/望む/期待する」というよく使う動詞ですね。先日ノーベル賞を受賞した田中耕一さんが外国人記者クラブで人気の過熱ぶりについて聞かれたところ「I hope I were single」と言ったのですが、これは「I wish Iwere single(私が独身だったら良かったなぁ)」と言うほうが普通です。wish は、可能性があまりないことを望むときに動詞の過去形と併用して使います。
 music plays and you display という部分では韻を踏んでいるのに気づきましたか? display は「ディスプレイ/表示/陳列/展示」といった名詞での意味はもちろん、「表示する/誇示する/(行動や振る舞いを)見せる」といった意味の動詞としても使います。
 this old clown の old は、「古い/年老いた」という意味ではなく、親しみを込めたり、くだけた感じを出すために使うのがこのケースです。frown は「She walked off with a frown(彼女はしかめっ面をして立ち去った)」のように使う、「渋い顔/しかめ面/眉をひそめること/顔をしかめること」という名詞ですが動詞にもなります。
 この歌詞の中の彼、言葉の端々に内気で遠慮がちな感じが出ています。もしかすると、自分に気のあるように見える素敵な彼女も、もしかすると彼の想像上の女性なのかもしれない、などと考えてしまったりも。
 この歌詞は5つの節があるのですが、彼は最後の1節で「And I think that Ijust fell in love with you」と歌うの。こんな彼、惚れちゃうかも。

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