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-水はガイアの血液なのだ-
君に会いにゆく VOL.3

 はじめに

 今回、水に関することを書いてみたい。ぼくは、なぜか水に関わるものが好きだし縁がある気がする。仕事もそうだし、マックOSの新しいユーザーインターフェースもアクアって言うし、初代iBookを買うときもブルーベリーの色にしたのは、生き物のようで海の色を想起させるからだった。それからRPGゲームとかでも水の都みたいなところが舞台になっていたりするとそれだけで好きになってしまう。  水っていうとやはり生命の象徴だ。人間の体重の約60パーセントが水分であるし、ぼくらが住んでいるこの地球は、水の惑星と言われるように表面の約3分の2は海で覆われている。生命の発生から進化まで水なくしては起こり得なかった。  水は地球という名のガイアの血液みたいなものなのだろう。母親の羊水と原始の海水の成分はとても良く似ていると聞く。海を見ているだけで何だか落ち着いたり、癒されるのもきっとそんな遠い過去の記憶が蘇るからなのかもしれないね。

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Lesson5『水とはどんな物質?』

 まず水のいくつかの物性を見てみよう。
 実は水はH2Oという単純な化学式を持つけれど、他の物質にはない特異な性質を持っているんだ。身近なところで挙げてみよう。

●表面張力 --- Q. アメンボはどうして水の上を歩けるのか?
      --- A. 水の表面張力が大きいから。水は水銀を除いて表面張力がもっとも大きくて表面積をで
          きるだけ小さくする凝集力を持っている。
          水道の蛇口から落ちる水滴もよく見てみると表面積が小さい球形になっている。
          木が根っこから水を吸い上げたり、土の中に水を蓄えたりすることができるのもこの凝集
          力のお陰。

●密度   --- Q. 水の密度が一番大きくなる温度は何℃?
      --- A. 4℃。
          ところが、氷の密度は、0℃の水より小さくて水に浮かんでしまう。
          でも体積は水よりも11分の1大きくなる。不思議でしょう?

●比熱   --- Q. 1gの物質の温度を1℃上昇させるのに必要な熱量を比熱という。(cal/g/℃)
          空気と陸地と水とでは比熱はどれが一番大きいか?
      --- A. 水!
          水の比熱は他の物質よりとても大きい。
          ということは、水は暖まりにくいけれど冷めにくいということ。
           水(20℃): 1.00(cal/g/℃)
           空気    : 0.24
           陸地    : 0.18

 ぼくらの身近なところでも水は特別な物質だってことがわかってもらえると思う。もしも、水がこんな性質ではなかったら、この地球に生物は住めなかっただろうね。そう、水は奇跡の物質だったのだ。

 それから、水は古来から霊的なものであり、いろいろな伝説も残っている。泉や沼や川や滝などにもよくそんな話があるでしょ。奇跡の泉と言えば、ルルドの泉とかも有名ですよね。日本でも神事では水を使うことが多いし、キリスト教では洗礼のときに水を使う。聖書には創世記から始まって、水にまつわる話がたくさんある。  水の守護神は、西洋では「ライオン」で東洋では「龍」らしい。蛇口っていう言葉もその辺から来ているみたいだ。そういえばヨーロッパの広場とかにある水が出ているところはライオンの口だよね。           


水道水は、ほぼ中性

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Lesson6『ぼくは水の監視員』

 ぼくの現在の仕事は、水道水の水質を検査をすること。以前、山川編集長に8年ぶりに再会したときに石川君て今どんな仕事しているの? と 聞かれた。水道水の水質検査ですと答えると 「水の監視員」かと言われてしまい、山川さんが他の誰かにぼくを紹介してくれるときには石川君は「水の監視員」なんだよと必ず言うのだ。
ぼくとしてはその表現はいささかオーバーなので結構恥ずかしいんだけど 、小説「水晶の夜」の主人公の「森の監視員」みたいでイマジネーションが広がっていいかなとも思っている。

 具体的な仕事内容というと、日々、浄水場で作られた水のチェックと水源から水道の末端までの水質管理をやっている。毎日検査、月例検査、年検査など実際にサンプリングした水の水質検査とともに24時間連続監視装置による管理である。
 水源は、いろいろだ。河川水、湖沼水、地下水、湧水などいろいろな原水がある。今、勤めている浄水場では地下水が原水である。でも、地下水だけでは需要をまかなうことができないので、河川を原水としている他の浄水場から浄水を送ってもらいブレンドしている。  地下水の利点は、なんと言っても水質が一年を通して安定していることだ。だから、水処理が楽なのである。しかし、河川などの表流水は、天候の影響をもろに受けてしまい水質が変動しているために水処理は大変なのだ。
 地下水は、水温もほぼ一定なので、よく知られているように夏冷たく、冬温かく感じられる。昔、ぼくが通っていた小学校の一部の蛇口でも井戸水を使っていて、とてもおいしかったのを覚えているよ。
 そんなにいい地下水なのに残念ながら、近年、ゴルフ場で使用される農薬などの心配や工場などにおける有害化学物質漏出による地下水の汚染も報告されている。水道用の深井戸においてもそれらは脅威であり厳重な水質管理の元にある。
 一般住宅でもまだ浅井戸を使っているところもあるようだけど、一般的には洗い物など生活雑用水が主な用途のようだ。もしも飲用に使用される際は、有害化学物質や大腸菌群に汚染されていないか定期的にチェックする方が望ましいと思う。
 また、地下水はそればかりに頼り切ると地盤沈下の原因にもなるのがデメリットだ。
 河川などは、前述したように天候の影響を受け、小雨による渇水はもちろんだが、逆に台風などで河川が濁ると浄水過程でそれを取り除き清浄な浄水にするのも大変なことなのである。また、人口が爆発的に増加し経済活動が発展した戦後は、工場の排水、家庭用雑排水も河川を汚染している。
 下水道の整備も重要なのだが、なにより汚れた水を極力出さないような工夫も大事なのだ。しかし、人間が生きるには水を汚さざるを得ない現実。ぼくらは、自分自身の首を絞めておきながら、自分の健康に非常に高い関心を持っている。被害者であり加害者でもある。ぼくは、この矛盾を日々痛感している。

 近代水道が発達する前は、川の水も清浄だったからほとんど処理もせずに済んでいたのが、コレラなど水系伝染病が蔓延するとどうしようもなかった。そこで、塩素による消毒が義務づけられた。残留塩素を末端で0.1mg/L以上保持しないとならない。0.1以上あれば消毒効果があるんだ。一方では、川の水はどんどん汚され、有機物などが増える。するとそれが消毒剤としての塩素と反応して副生成物が生じてくる。それがよく言われるトリハロメタンである。これは発ガン性の物質なのだ。トリハロメタンや環境ホルモンなどの問題が出てくるのは、自業自得なのかもしれない。生活環境、衛生状態を向上させようとしてきた結果、かえって新たな問題が浮上してきたのだ。 今では、トリハロメタン類は水質基準項目になり、ダイオキシン類は監視項目として管理されている。
 また、最近では塩素にさえも耐性のあるクリプトスポリジウムやジアルジアといった原虫による新たな問題も生じ、水道業界は対応しなければならなくなったんだ。


仕事中

 それから、ぼくの仕事の一つにはユーザーからの苦情対応がある。
 例えば、蛇口をひねったら赤い水が出た、白い水が出た、やかんに白いものがつく、黒い異物が出てきた、味がおかしい、においがおかしい等々…様々な苦情や問い合わせが寄せられる。
 電話で説明し、了承してもらえる場合もあるが、大体は現場、ユーザーのお宅に伺うことになる。そのほとんどが水道水の特性や給水管に起因するものである。近年はユーザーの水道に対するニーズは多様化し関心は高まり、問い合わせは増加の傾向にある。  接客で一番気を付けていることは、そのユーザーの声を聞くということだ。先入観を持たず、どんなに理不尽なことを言われても一度受け止めて、わかりました対応を考えましょうということでまずは現場に行くことにする。電話ではかなり感情的になっていた方も実際にお会いして現地調査した上で説明をしていくと、了承してくださることが多い。きっとこの文章を読んでくれているみなさんも水道水に対して不信感を抱き、浄水器、ボトルウォーター を使用している方も多いのではないだろうか。もしも水道水質に対して何か心配なことなどがあれば、その地域の自治体、水道局に問い合わせてみてください。きっとなんらかの対処をしてくれるはずだから。
 この仕事をやっていて、ぼくが何より一番応えるのは、ユーザーから「私は地方から引っ越してきたが、そこに比べるとこの町の水はまずくて健康を害したのもこの水道水のせいじゃないかって思う」というようなことを言われてしまうとき。そんな時は、かなりへこむ。
 でも反面、うれしいのは、苦情箇所を調査した結果どこが悪いのか原因を特定できてそれが解消したとき、水質の疑いが晴れたとき。そしてやっぱりお礼を言われたときなんだ。電気、ガス、水道はライフラインだけど、ユーザーが自分で好きなところを選べない(公営企業だから)わけであるから、安心できるサービスを心掛けたい。
 とっても地味な仕事だけど、ぼくはこの仕事が好きだ。

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Lesson7『水道水の水質基準』

「水質基準項目」

■健康に関連する項目(29項目)
 一般細菌(1mLの検水で形成される集落数が100以下であること)
 大腸菌群(検出されないこと)
 カドミウム(0.01mg/L以下)
 水銀(0.0005mg/L以下)
 セレン(0.01mg/L以下)
 鉛(0.05mg/L以下)
 ヒ素(0.01mg/L以下)
 六価クロム(0.05mg/L以下)
 シアン(0.01mg/L以下)
 硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素(10mg/L以下)
 フッ素(0.8mg/L以下)
 四塩化炭素(0.002mg/L以下)
 1,2-ジクロロエタン(0.004mg/L以下)
 1,1-ジクロロエチレン(0.02mg/L以下)
 ジクロロメタン(0.02mg/L以下)
 シス-1,2-ジクロロエチレン(0.04mg/L以下)
 テトラクロロエチレン(0.01mg/L以下)
 1,1,2-トリクロロエタン(0.006mg/L以下)
 トリクロロエチレン(0.03mg/L以下)
 ベンゼン(0.01mg/L以下)
 クロロホルム(0.06mg/L以下)
 ジブロモクロロメタン(0.1mg/L以下)
 ブロモジクロロメタン(0.03mg/L以下)
 ブロモホルム(0.09mg/L以下)
 総トリハロメタン(0.1mg/L以下)
 1,3-ジクロロプロペン(0.002mg/L以下)
 シマジン(0.003mg/L以下)
 チウラム(0.006mg/L以下)
 チオベンカルブ(0.02mg/L以下)

■水道水が有すべき性状に関連する項目(17項目)
 亜鉛(1.0mg/L以下)
 鉄(0.3mg/L以下)
 銅(1.0mg/L以下)
 ナトリウム(200mg/L以下)
 マンガン(0.05mg/L以下)
 塩素イオン(200mg/L以下)
 カルシウム・マグネシウム等(硬度)(300mg/L以下)
 蒸発残留物(500mg/L以下)
 陰イオン界面活性剤(0.2mg/L以下)
 1,1,1-トリクロロエタン(0.3mg/L以下)
 フェノール類(0.005mg/L以下)
 有機物等(過マンガン酸カリウム消費量)(10mg/L以下)
 pH値(5.8以上8.6以下)
 味(異常でないこと)
 臭気(異常でないこと)
 色度(5度以下)
 濁度(2度以下)


 以上が基準項目46項目である。これをすべてクリアしないとならない。mg/Lとは、濃度の単位で100万分の1のオーダー。1L(リットル)中の物質のmg(ミリグラム)数のこと。以前はよくppmとも言われていた。
 昭和32年に明治以来の水道条例に代わって水道法が公布されて、水質基準も省令で定められた。当初は30項目だった。これからも項目数は改正の度に増えていくだろう。

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Lesson8『おいしい水とは?』

 最近、水をおいしく感じることってありますか? 子供のときに校庭で思いっきり遊んだあとに蛇口に口をつけてごくごくと飲んだ水。学生時代、長距離走競技の途中、給水所で補給した水。とってもおいしかった。大人になってからはあまりないなぁ。お酒を飲んだあとに飲む一杯の水とかがせいぜいだったりしてね。
 一般的には、適度なミネラル(カルシウムやマグネシウム等)と遊離炭酸があり、無臭であり、水温が体温より20〜25℃低いときにおいしいと感じるそうだ。特に水温は水のおいしさを決める重要なファクターなので、夏などは冷やして飲むといい。
 それと、給水管内の金属が溶けだして溜まっている可能性がある朝一番の水はしばらく流してから飲用に使用するといい。十分に沸騰させることで、残留塩素はなくなるし、トリハロメタン濃度を低くすることができる。(揮発性のため。煮沸すると水中の炭酸が分解するし、ミネラル分は少なくなるんだけど。そういう意味で蒸留水はとてもまずく、湯冷ましをたくさん飲むのは血中のイオンバランスが崩れるので逆に体に良くない。)

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Lesson9『 ボトルウォーターとパワーマン』

 先日、NHKテレビのドキュメンタリー番組でインドにおけるボトルウォーター事情を知ったんだ。インドでは、水道があるにはあるけど、水道インフラが行き渡っておらず日本のように蛇口をひねればすぐに水が出てくるなんて夢のような話。そこで地元の民間業者がボトルに水を詰めて売ったところ、爆発的にヒットしたのだそうだ。インドではボトルウォーターの需要がすごくあるそうである。
 しかし、アメリカの資本がインドは金になると着目し、乗り出した。まず、彼らがやったことは、現地を調査し、水質基準を設定するようにインド政府に提言し強くはたらきかけた。そして、水質基準制定。企業の進出。十分な資本をつぎ込んだ彼らのボトルウォーターは、生産も水質検査態勢も整っており、軽く水質基準を満たし売れる。しかし、基準をクリアできなくなった地元業者は、廃業に追い込まれていく。次々に淘汰されていく。資本主義だからしょうがないことだよとそのアメリカ企業の社長は、ぶくぶく太ったその顔で言い放っていた。確かに資本主義では利潤追求という大命題があり、戦略と力こそが全てだろう。水質が怪しげな水が出回って人々が腹痛になるより、きちんと水質管理された水の方がいい。でも、なんだか釈然としない。貧しい人々は高価なボトルウォーターなんて買えないし。結局、価値観を押し付けているのだ。
 アメリカだけでなく日本もこんなことをアジアやアフリカで行ってきたのだろうか。この番組を見てぼくはショックだった。 暴利を貪り尽くしてきたのだ。裕福な国の人間が極貧の国に行ってそれをやる。歪んでいる現実。 2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件とその後の戦争についてもまさしくそれと同じにおいを感じる。強者が弱者をねじ伏せる構図。そしてテロの繰り返し。日本はアメリカを支援する形で戦争に加わってしまったと思う。基地や原発ももちろんそうだけどね、水道施設なんかにバイオテロやられたらたまらない。詳しくは書けないけれど、お陰で水道も厳重なチェック体制に入っているんだ。もう当事者だよ。

 茶色く濁った聖なるガンジスで身を清める人々や死んだ人の遺灰を流す人々の姿は、貧しくても荘厳さが感じられるほど美しかった。

 日本でも水道水に対する不信感や健康志向により、ボトルウォーターの需要はものすごいある。前述したようにぼくは、水質の苦情で市民の家庭に足を運ぶことが多いけれど、生水は飲まない、ボトルウォーターだけ料理や飲用に使うという人も多いのである。
 厳しい品質管理のもと、パック詰めされた水。コンビニやスーパーの棚に並んでいる水。ぼくらは安心を買う。
 日本は水事情のいい国のひとつだと思うけれど、これから先はどうなるんだろうね。森林も減り、川が汚れきってしまい、水道水も飲めるような代物ではなくなって、お風呂もボトルウォーターで沸かして…ものすごいコスト高になっちゃうよ。

 最後に…

 いろいろととりとめもなく書いてきたけど、最後に映画の話題を。
ぼくは、リュックベッソン監督の映画「グランブルー」が好きだ。これは、フリーダイビング(素潜り)の達人であるジャック・マイヨール氏をモデルにした映画で、これを観たあとはイルカとともに泳いでみたいと誰もが思うはず。ぼくはダイビングなんてやったことないのにすごく共感できた。水泳は苦手だったけど、いつか海の中に潜ってその世界を感じてみたい。実は密かなぼくの夢。
このジャック・マイヨール氏は、何の器具もボンベも使用せずに素潜りで水深105メートルまで到達するというすごい記録を持っている。これはもう生理学的にも説明が付かないくらいすごいことらしい。彼は、閉息潜水の呼吸停止のためにヨガをし、日本の禅寺で禅を学んだこともあるそうだ。
彼の著書「イルカと、海へ還る日」(講談社刊)も読んでみたが、「人間は、精神的ブレーキの犠牲者なのかもしれない。」という言葉が心に残った。これは何に対しても言えることだよね。精神的ブレーキさえ取り外せたら、人が無意識下で呼吸できるように無意識下で呼吸停止もできるようになるかもしれない。イルカなどの水棲哺乳動物と同じように。もともと赤ちゃんも母親のお腹の羊水の中では実は水棲人間だし。
まったく彼のように水と付き合えたら本当にすばらしい。自然の中にある神秘と忘れてしまった自分の中の原始的な何かに目覚め、直接的な生を感受したい。毎日毎日水質検査をやっていてもそういうことを忘れたくないな。ぼくはそう、思うんだ。「グランブルー」はお勧めだよ。


□ 参考文献&DVD□
  • 「水のなんでも小辞典」土木学会関西支部編 講談社ブルーバックス
  • 「調べる・身近な水」 小倉紀雄著 講談社ブルーバックス
  • 「水道便覧」社団法人 日本水道協会
  •      
  • 「イルカと、海へ還る日」ジャック・マイヨール著 関邦博編・訳
  • 「グランブルー グレート・ブルー完全版」
    20世紀フォックス ホームエンターテイメント ジャパン株式会社 FXBD-2298


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