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タイトル
 小川義文氏と山川健一氏の共著、『ジャガーに逢った日』(二玄社)が刊行された。写真は撮り下ろし、文章は書き下ろしだ。自動車雑誌『NAVI』のメインフォトグラファーとして長らく活動してきた小川義文氏にとって、実は本書は初めての本格的な自動車写真集でもある。最近では各種の写真コンテストで審査委員をつとめるなどWebでの活動も増えてきた写真家・小川義文氏に、写真について語っていただいた。掲載させていただく写真は彼が『ジャガーに逢った日』のために撮影し、だがページ数の関係から本には収録されなかった写真である。(編集部)
vol1タイトル
──あとがきには、ふたりの真夜中の雑談からこの本の企画がスタートしたとありましたが、具体的にどんな話だったのですか?(編集部、以下同)
小川: ぼくと山川さんは、夜中にしょっちゅう会ってるんですね。だいたいぼくが彼の仕事場に遊びに行って、朝方帰ってくるんだけど。で、今年に入ってジャガーS-typeに乗るようになった彼が、ある日ぽつりと「ジャガーのことを書いて1冊の本にしてみたいな」っていうんだよね。それからこの企画がスタートしたんです。
 自分の中にもジャガーがすごく好きだって気持ちがあって、過去にジャガーに2台乗ったこともあったし、じゃあやろうか、と。『ジャガーに逢った日』は、考えてみるとぼくにとっては最初の自動車写真集でもあるんです。以前に特殊な形で出したことはあるけれど、一般書籍で出すのは初めてだから。これはぼくの写真の本質にも関わることなんだけど、ジャガーというクルマそのものを表現するということも大切だけれど、ジャガーでたとえばイギリスのこととかイギリスの魅力とかダンディズムとか、そういったことを表現してみたいなと前から思っていたことがあって。
──ジャガーの写真を撮ることで、何か別のことを表現したいということですか?
小川: うーん、まあ、そういうことかな。ジャガーを素材に何か表現したいことがあるって、前から思ってたんだね。でも、写真だけで表現するにはあまりにも難しいテーマで、文章の力を借りないとこの企画は成立しないと思っていた。だから山川さんのジャガーのことを書きたいという言葉を聞いた時に、瞬間的に「あ、今だな」とシンクロすることができたんですね。ぼくのスタンスは写真を撮るということで、でも写真で表現する以前に大事なことがあるんですね。自分の写真というのは、言葉に触発されて写真を作っていくという……いつもそういう作業をしている。だから、ジャガーの本を作るということは、ジャガーというクルマを文学でいかに表現するってことなんだよね。
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──写真で文学する、あるいは文学的な写真を撮るという意味ですか?
小川: うまく説明することができるかどうか自信がないんだけど、写真に辿り着く過程が文学だと思っているわけです。シャッターを切るその直前までは、文学なんだよね。で、シャッターを切ったその瞬間に写真になる。そういうことなんだろうと思うんです。特に今回のような場合、そうしないことにはジャガーやジャガーが表現している世界の魅力を表現することなんてできない。
 自動車を文学にするってことは、実は今までに何人ものクルマ好きの作家の人達が試みたわけだけれど、誰も成功していないんだよね。自動車の小説を書くって意味じゃなくて、自動車そのものを文学として成立させるって意味なんだけど。イギリスの自動車雑誌だとか、ヨーロッパの自動車雑誌が翻訳されたものを読むと、いくつか文学的なイメージを感じることができる読み物はある。ところが、日本でそんなふうに文学的に自動車を語れる人って、いるようでいなかったと思うんだよ。少なくともぼく知っているなかで自動車を文学として語れる作家は山川健一だけだった。
──ああ、なるほど。言われてみるとそうかもしれないですね。
小川: それで、今回は山川健一の言葉とぼくの写真で、ジャガーを文学として表現する、ということに挑んだわけです。あ、これならジャガーというクルマやイギリスって国やその歴史を表現できるって思ったのかな。あるいは、そういう方法以外に自動車ってものは表現できないとぼくは思っているんですね。今回の『ジャガーに逢った日』をスタート地点にして、他のイギリスのクルマやドイツのクルマや、いろいろなクルマを手がけていきたいと思っているんだけどね。自動車マニアだけではなく、マニア以外の人も楽しめる、自動車を中心にした文化や歴史や、あるいは男達の友情とかね、そんなものを表現した本になったと思います。
 自動車ってのは文化の集大成で、簡単に人間の能力を上回る動力性能を持ったものでしょう。こんなに楽しいオモチャはないわけで、でもそれを表現するって意外と難しいんだよね。
──小川さんと山川さんのコンビというか、ふたりで1冊の本を作るという意味では『ブリティッシュ・ロックへの旅』(東京書籍)がありましたよね。
小川: あれが初めてちゃんとコラボレートした仕事かな。
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──『ブリティッシュ・ロックへの旅』はロックが素材だったわけですが、今回はクルマということで、『ブリティッシュ・ロックへの旅』とは違うアプローチとか方法論とかあったんですか? あるいは、そういう方法論を巡る話を山川さんとされたりしましたか。
小川: いや、そういう話を彼としたことはなかったな。たぶん、自分にとっても彼にとっても、ロックも自動車も同一線上にあるものなんだよ。だから自動車なら自動車、ロックならロックというものに関してのコンセンサスを得なくても大丈夫なんだよね。ブリティッシュ・ロックとは何かとか、ジャガーとはどういうクルマかなんてことは何ひとつ話さないで、お互いにすんなりその世界に入れたと思う。
──でも、それってけっこう凄いことですよね。本を見るとわかるんだけど、文章の部分と写真の部分がほぼ半々。それで1冊なわけで、これが写真と文章がバラバラだったら1冊の本にすると違和感があると思うんですよね。別々の人間がやってるのに、それが1冊の本になるのって凄いなと思ったんですけど。
小川: でもね、『ジャガーに逢った日』も『ブリティッシュ・ロックへの旅』も、綿密な打ち合わせってぜんぜんしてないんだよね。本を作る上でいろいろな制約があるよね。ページ数だとか紙質だとか装幀だとか、いろんな問題があるでしょ。でも、最初に決めたのは、現行で生産されているジャガーの全車種を取り上げるってことと、X-typeという新しいジャガーをイギリスで取材するという、このふたつしか決めなかったね。ふたりで、「ここはどうする? あそこはどうする?」なんて相談したことはないんだよね。
──それでこんなにうまくシンクロしているっていうのが凄いなと思いまして。不思議。
小川: それは、ふたりの自動車観がけっこう似ているからじゃないかな。
──そういう信頼感が最初にあって始めた、ということなんですね。
小川: うん、でもそれは信頼感というと響きがいいけれど、実は本が出来上がるその直前までは、写真家と作家の共著というのはバトルだと思うんだよね。お互いが何を考えているのか気にしている部分もあるだろうし、対等に表現を提出したいという思いもあるし、写真が挿し絵になったり文章がキャプションになったりしたらつまらないでしょう。だから、バトルなんだよ。それは、ぼくら自身が闘う、という意味ではないよ。会ってる時は穏やかな気分で会ってるわけだけど、いざ作品ということになると負けたくないというか、燃えたぎるようなものがあるよね。
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◎写真=小川義文
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