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上を向いて歩こう
 ぼくが物心ついた頃に聴いていた音楽のひとつに坂本九の「上を向いて歩こう」がある。これは日本の名曲だ。多分両親が過去に聴いていたであろうそのドーナツ盤(シングルレコード)は、箪笥の引き出しにしまってあった。それを引っ張り出して、ポータブルレコードプレーヤーで繰り返し聴いたものだ。
 ひとりぼっちの夜に涙が零れないように上を向いて歩こうと歌われるその歌詞とは裏腹に陽気にスウィングする曲。それは、昭和40年代の話。ませたガキであるぼくはニール・セダカの「恋の片道切符」やペギー葉山の「南国土佐を後にして」などに混じって甘酸っぱい気持ちを吸い込んだ。
 それから、幼少時に過ごした浦和というところは、坂道が多いところで、ぼくの家も坂の途中に建っていた。その家の庭のフェンス越しに西の空に沈んでいく夕日がよく見えたんだ。
 日本の高度経済成長期真っ盛りのその頃、家の近所でもブルドーザーの音が響き、アスファルトのコールタールの匂いがしてきて、空き地がたくさんできた。その空き地の向こうに夕日が沈んでいく。まるでペロペロキャンディーのように見える沈み行く太陽が大好きだった。太陽の色って白、レモン色、黄色、オレンジ色、朱色、いろんな色に変わるんだってことを知ったよ。
 青空を眺めると、くねくねしたプランクトンみたいな透明なものが見えることに気づいたのもその頃で、それはきっと空のオーラなんだろうね。子供って音とか色とか匂いとかオーラとかみんなそういう神秘に感応する力を持っているんだと思う。大人になっていろいろと忙しくなって、擦り切れてしまって、そういうものを忘れてしまうのって悲しい。だからぼくはそういうものを忘れたくないし、失ってしまったものを取り戻したいんだ。

 九ちゃんのもう一つの名曲に「見上げてごらん、夜の星を」があるけれど、今でも空を見上げると、鼻歌まじりに彼の歌を思い出す。それから、九ちゃんも飛行機事故で死んでしまったけれど、もう死んでしまった懐かしい人々を思い出す。世界を変えてしまった911の残酷な空を思い出す。
 人が死んだらどうなるのって母や祖母に聞くと、死んだらお空に昇るのよとかお星様になるのよってぼくに教えてくれた。太古の昔からそうなのだろう。そして人々は呪術や占星術や宗教、信仰において太陽、星、月、空と密接に関わり合ってきた。そうやって空を見上げて人知では計り知れない存在を知り、自分自身を知り、死者を追想し、畏怖しつつも慰められてきたのだろう。
 ところで、RPGゲームのファイナルファンタジ−9に「ビビ」っていうキャラクターがいて、ぼくは今でもそのビビが大好きで、彼は邪悪なものによって作られたクローンというか人形のような存在、黒魔導師なんだけれど、明確な意志ってものを持ち仲間たちと冒険する。しかし、ビビには作られたはじめから限られた時間だけ動けるという制約があって、ついに「ぼくの記憶を空に預けに行くよ」って言って最期を迎えるんだ。でもよく考えたらぼくら人間もビビと同じなんだよね。というかビビは人間の象徴。このファイナルファンタジーシリーズは、やってみるとグラフィックがとても綺麗で特に海や空の色は感動的でさえある。

 ぼくは空を見上げ、カメラのファインダーを覗く。
「ああ、この光景は偶然じゃないぞ、何かのメッセージかも知れないな。みんなに見せたらきっとすごい綺麗って言う だろうな。それにしても、もうどんなに地団駄踏んでもあいつには会えなんだなぁ。もっとやさしくしてあげればよかった。どうして自分はこんなところにいるのだろう。いつか自分もこの空へと拡散して行くのだな。そのときには本当に懐かしい人たちに会えるのかな…」
 とても後ろ向きで、過去へタイムスリップして、憂鬱でメランコリックな気分に落ち入ることも多い。それでもいい。ぼくは呼吸する。空気を吸ったり吐いたりしながら生きる。そう、空の空気を胸一杯に吸い込んで出す。生と死を抱え込んだまま。きっと、みんなもそうやって生きているんだね。それから、一瞬、息を詰めて、シャッターを切る。
 ニルヴァーナ(涅槃)という仏教語がある。空から降り注ぐ光、雲の造形、街路に作る光と陰影は、自分の目で確かに見ることのできるこの世に現出したニルヴァーナなのだ。

 ぼくの小さなWeb写真館へようこそ。
 忙しい毎日、たまには空を見上げてみよう。溜め息をつこう。深呼吸しよう。部屋の中で。街角で。会社で。学校で。駅のプラットホームで。公園で。川のほとりで…。そうしてひとりぼっちになろう。いくら大勢でいてもひとりぼっちだ。そのとき、誰かのあたたかな眼差しを感じるだろう。

●ぼくとコイソさんのメール往復書簡●

ぼくの撮る写真について感想をくださったり、応援し、励ましてくださる方々に感謝します。おかげさまで写真館を開くことになりました。

※これからシリーズでアップしていく予定です。

SCENE1「まなざし」

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■デスクトップピクチャーVOL.1

SCENE2「NIRVANA」

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■デスクトップピクチャーVOL.2

SCENE3「路上にて」

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 Special Thanks to "SO MUCH TROUBLE" ---Walkin'---
 澄んだ空の下 おまえの優しい微笑みだけを 両手で大切に
 抱えていたい Oh My Babe.....

 例えばこんなブルーズが空の写真を撮るときには頭の中でこびり
 付いたように鳴っていることがある。


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